こんにちは。マクシブ総合会計事務所です。
令和8年度の税制改正は、私たちの働き方やご家庭の手取り額に直結する歴史的な大減税・見直しと言われています。
「結局、自分のパート代はいくらまで扶養内で抑えればいいの?」「税金は安くなっても社会保険はどうなるの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今回は、経営者様や総務担当者様、そして扶養内で働く皆さまが必ず押さえておくべき「扶養控除等の所得要件の変更」について、主要なポイントに絞って分かりやすく解説します。
マクシブ総合会計事務所
公認会計士・税理士:金子 太妥志
公認会計士(登録番号14762)税理士(登録番号112259)
令和8年度税制改正の最大のポイントは、物価高騰への対策として、所得税がかかり始めるボーダーライン(課税最低限)が引き上げられたことです。
令和6年以前は年収が103万円を超えると本人の所得税が発生していましたが、令和7年度税制改正で160万円に大きく引き上げられました。令和8年度税制改正ではさらに178万円まで引き上げられます。深刻な人手不足が続く中、従業員の働き控えを解消し、手取りを増やすための歴史的な見直しとなっています。
ニュースでよく耳にする「178万円」という数字。これは、本人の所得税が0円になる非課税枠のことです。
仕組みとしては、「給与所得控除」と「基礎控除」のそれぞれに、本則の引き上げと令和8年・9年分の特例加算が組み合わさったことにより実現しました。
①:給与所得控除の最低保障額: 74万円
②:基礎控除の最大額: 104万円
① + ② = 178万円(新しい非課税ライン)
これにより、パートやアルバイトの方の税金負担は劇的に軽くなります。
この「178万円まで税金ゼロ」という特例をフルに受けられるのは、働く本人自身の給与年収が665万円以下の場合です。年収665万円を超える場合は、段階的に控除額が減らされる制限が設けられています。
ここが今回の記事で一番お伝えしたい最重要ポイントです。
「働く本人の所得税が178万円まで0円になること」と、「配偶者や親を税金の扶養(配偶者控除や扶養控除等)に入れること」は全くの別物です。
今回の改正で、家族が税金の扶養から外れないための所得基準(親族の合計所得金額)は、本則の改正に伴い一律で62万円以下と定められました。これを給与年収に直すと136万円になります。
働く本人に所得税はかからない。
配偶者や親の税金上の扶養に入れる。
つまり、夫が正社員として働いており妻のパート年収が150万円になった場合、妻本人の所得税は0円ですが、夫側で受けられる『配偶者特別控除』の金額が満額から減ってしまうため、結果として夫の税金が高くなるという現象が起きます。「178万円までなら、家族みんなの税金が安いままでいられる」というわけではないので、注意が必要です。
今回の改正によって、「世帯全体の手取り」がどう変わるのかを、配偶者控除も踏まえつつ、夫が正社員、妻がパートで働くご家庭を例に、具体的な組み合わせで見ていきましょう。
今回の改正による減税(基礎控除の引き上げ)の恩恵は、すべての人が一律で受けられるわけではありません。高所得者に対しては、一定の制限が設けられています。
自身の基礎控除に「42万円の特例加算」が満額適用され、非課税枠が104万円に拡大します。
自身の所得税が0円(178万円以下)になるだけでなく、夫側でも「配偶者控除(38万円)」が満額使えます。
夫婦双方の減税枠を100%フルに獲得できるため、世帯手取りが最もアップします。
夫の減税は満額ですが、妻が稼ぐにつれて夫の税金が少しずつ上がります。
自身の基礎控除の特例加算(42万円)は満額使えます。
妻本人の所得税は0円のままです。
妻の年収が136万円を超えると夫の「配偶者控除」からは外れますが、代わりに「配偶者特別控除」が段階的に適用されます。妻の年収が169万円以下であれば夫側でも38万円の満額控除が受けられ、それを超えても207万円まではなだらかに控除が減るだけなので、税金面での働き損はありません。
夫の年収が665万円(所得489万円)を1円でも超えると、目玉である夫自身の「基礎控除の特例加算(42万円)」がバッサリと削られてしまいます。
妻自身は税金ゼロ(178万以下)かつ、税金・社会保険ともに夫の扶養枠を満額キープできています。
妻の扶養メリットは残るものの、夫自身の特例加算がピンポイントで削られるため、組み合わせ①に比べて世帯全体の減税額は大きく減少します。
夫自身の基礎控除特例(42万円)が「5万円」に激減しているだけでなく、妻の年収が136万円を超えたため、夫の「配偶者特別控除」も段階的に縮小が始まります。
妻自身の所得税は年収178万円までは0円ですが、それを超えると段階的に発生し始めます。
夫側の控除がダブルで削られていくため、夫婦それぞれの年収のバランスによって手取りが大きく変わります。そのため、事前の綿密なシフト調整が最も重要になるゾーンです。
夫自身の特例加算が最低額(5万円)になっているだけでなく、妻が207万円を超えたことで「配偶者特別控除」も完全に外れ、0円になります。
妻自身に通常通り所得税・住民税が課税されます。さらに、社会保険の壁も超えるため、妻自身の給料から社会保険料が天引きされています。
税金や社会保険の負担により、年収180万円前後では手取りの増加効率が一時的に低下します。そのため、世帯手取りを確実に増やすには、損益分岐点(年収200万〜250万円以上など)を見据えて、収入を抑制せずに一定以上の水準まで稼ぐことが合理的な選択肢となります。
この条件に入ると、今回の引き上げ特例(42万円の加算)は夫婦ともに完全にゼロ(不適用)になります。基礎控除は特例加算のない本則の基準(62万円)のまま据え置かれるため、今回の法改正による手取りアップの恩恵はありません。
ただし、夫の年収が1,095万円以下であれば、妻の年収が178万円以下に収まっている限り、従来の「配偶者控除」や「配偶者特別控除」の枠組み自体はまだ満額の基準で受けることができます。
夫の年収が1,095万円(所得900万円)を超えると、今回の改正特例が使えないのはもちろん、従来からある「配偶者控除・配偶者特別控除」の控除額自体が段階的に引き下げられ、年収1,195万円(所得1,000万円)を超えた時点で完全にゼロ(扶養不可)になります。
妻自身の所得税は年収178万円以下であれば0円に抑えられますが、夫側の配偶者控除が削られるため、妻が年収を抑えても夫の増税を止めることはできません。
夫の税率自体が高いため、控除が削られることによる増税ダメージが最も大きくなります。この条件の世帯は、妻の税金を気にするよりも「社会保険の壁(130万・106万)」を絶対に越えないように管理するかの選択になります。
世帯手取りを考える上で、絶対に無視できないのが「社会保険の壁」です。
税金上の壁がどれだけ変わったとしても、社会保険(健康保険・厚生年金)の扶養基準は変わっていません。
配偶者(夫など)の社会保険の扶養に入るための基準(パートで働く本人の年収が130万円未満または勤務先によっては106万円未満)は、今回の税制改正とは完全に切り離されています。
| 壁の種類 | 改正後の基準 | 世帯年収への影響 |
| 税金(本人)の壁 | 178万円 | これを超えると、パート本人に所得税がかかる |
| 税金(扶養)の壁 | 136万円 | これを超えると、夫の税金が高くなり始める |
| 社会保険の壁 | 130万円(または106万円) | これを超えると、パート本人が社保に加入(世帯手取りが激減) |
いくら税金の仕組みが「178万円までOK」となったからといって、パート代を150万円などに増やしてしまうと、社会保険の扶養から外れて本人が保険料を支払うことになり、世帯全体の手取りが10万円以上も減ってしまう、「働き損になる」ということが起こり得ます。
この社会保険の壁は、働くスタッフ側だけの問題ではありません。
もし従業員が「130万円の壁(または106万円の壁)」を超えて社会保険の加入条件を満たした場合、パート先の会社側もその保険料の半分を「法定福利費」として負担しなければならなくなります。
今回の税制改正(178万円への引き上げ)をきっかけに、パートスタッフが一斉に「もっとシフトを増やして稼ぎたい!」と希望してきた場合、事前のシミュレーションなしに応じていると、会社の労務コスト(社会保険料の会社負担分)が急増する経営リスクへと繋がってしまいます。
現時点では、一時的な収入増であれば連続2年まで扶養に留まれる「年収の壁・支援強化パッケージ」などの救済措置もありますが、これもあくまで特例です。さらに、今後は「社会保険の適用拡大」の議論も進んでおり、企業側の負担増のリスクは高まっています。
特に学生アルバイトについては、夜間・通信制・休学中など、加入対象となるスタッフの就学状況(昼間学生かどうか)を、今後のシフト枠の設定も含めて、今のうちから慎重に把握しておくことが不可欠です。
アルバイトをする学生本人の所得税は年収178万円まで0円(非課税)になりますが、親の税金の扶養に入れるかどうかは「子どもの年齢」によって基準が異なります。
令和8年度から「特定親族特別控除」が新設され、給与年収159万円まで親の扶養控除が満額受けられます。さらに、それを超えても約197万円までは段階的に控除が減るため、1円超えたからといって親の税金が急激に高くなることはありません。
こちらは段階的な措置がないため、給与年収が136万円を1円でも超えると親の扶養から完全に外れ、親側の税金がドカンと高くなります。
ご主人が自営業の場合であっても、パートで働く妻自身の非課税枠が「178万円(本人の年収665万円以下が条件)」になるルールは会社員家庭と全く同じです。
ただし、夫側の確定申告で「配偶者控除・配偶者特別控除」を満額受けるための夫自身の所得制限(合計所得金額900万円以下)については、ご主人の「売上」ではなく、売上から経費や青色申告特別控除等を差し引いた「所得」の金額で判定することになります。
令和8年(2026年)の給与(令和8年分所得税)から適用されます。
毎月の給与天引きの時点ではまだ安くならず、実際の恩恵は冬の年末調整で一括してドカンと戻ってくる形になります。住民税の税額変更についてはタイムラグがあり、翌年(令和9年6月徴収分)からの反映となります。
令和8年度税制改正は、手取りが増えるチャンスとなる一方で、税金と社会保険とのズレなど、正しく理解しておかないと損をしてしまう落とし穴もあります。
今年の年間給与の着地点が少しずつ見え始める中、企業としては、従業員が年末になって慌てて働き控えをしないよう、正しい情報を早めにアナウンスしていくことが求められます。また、今年の年末調整からは新しい計算基準や書類様式に変わるため、経理実務の準備も今から少しずつ進めていきましょう。
「うちの会社のパートさんの働き方はどう見直せばいい?」「年末調整の準備は何をすればいい?」など、実務上の具体的な疑問がございましたら、ぜひ当会計事務所までお気軽にご相談ください。
東京都中央区のマクシブ総合会計事務所では、税務に関する関する最新情報や、お客様の状況に応じた適切なアドバイスを提供いたします。ご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
この度、マクシブ社会保険労務士法人を設立いたしました。
経理代行サービスや節税対策はもちろんのこと、給与計算、年末調整等の関連業務を含む給与計算業務に係るトータルサポートも承っております。
社会保険料、源泉徴収税の控除を含む給与計算から、給与明細の発行、給与振込まで各種代行業務や、クラウド給与・勤怠ソフト導入のご提案などもさせていただいております。気になる方は是非、お気軽にご連絡下さい。
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監査法人トーマツに入社し会計監査及び株式公開支援業務に従事。その後、野村證券株式会社において資金調達やM&Aに関する財務戦略の提案業務を手掛け、また、ベアー・スターンズ証券東京支店では不動産融資及び証券化業務に携わる。
2008年に独立し、マクシブ総合会計事務所及びマクシブ・アドバイザーズ株式会社を立ち上げ代表に就任。